夫婦で佐久旅行


   ・・・1998年10月・・・

結婚30周年の記念に「浅間山を描きに行こう」と妻の運転で信州の佐久市にドライブ旅行にでかけた。宿は、昨年佐久市にオープンした「サンピア佐久」という公共の宿である。浅間山のロケーションが最高で身体障害者の人が泊まれるようにツインの部屋が一部屋用意してあるという。

身体障害者にとって旅行は楽しみも大きいがそれ以上に心配の方が大きい。途中トイレは大丈夫だろうか?、あるいは宿に着いてからもトイレは大丈夫だろうか?風呂は入れるだろうか?食べる物は大丈夫だろうか?という衣食住の基本的なことが健常者と違い心配なのである。

トイレ、食堂などの高速道路の付属施設には身体障害者に対する配慮が行き届き、高速道路ができてから身体障害者の旅行が随分しやすくなったと思う。信州への旅行も、冬季長野オリンピックで高速道路がつながってから身体障害者の心配が少なくなったように思う。実際に旅行してみてもそのことを強く感じた。ただ便利な施設があっても使えなければどうしようもない。高速道路でもトイレに近いところに身体障害者用の駐車スペースが1台分確保されており、ここからだけ車椅子がトイレにいけるように段差がない。せめて2〜3台分欲しいと思うが1台分でも無いよりは良い。もう一つこの身体障害者用の駐車スペースに健常者が駐車していることが結構ある。車椅子を使う身体障害者には先ずトイレなのである。そのために飲食を我慢していることを理解して欲しいと思う。

あいにく小雨で浅間山は雲に隠れていて見えなかった。「楽しみにしていたスケッチが出来ないかもしれないな」という気がしたが妻も私もそれも仕方がないと思った。久しぶりの“夫婦旅行”である。二人でのんびりできればそれで良いと思っていた。

「サンピア佐久」は高台にあり全室が浅間山に向いていて晴れた日の大パノラマは素晴らしいだろうと想像できた。
信州に10カ所ある公共の宿の中で身体障害者用の部屋が用意されているのはここだけである。
ツインの部屋に入ると車椅子のまま自由に室内を移動できるようにゆったりとしている。洗面所、浴室、トイレにも引き戸を開けると自由に行けるように段差がない。付き添いの人用に洗面所、浴室、トイレが別にあった。こういう身体障害者用の部屋が用意されている宿泊施設が、もっとあちこちに出来れば身体障害者がもっと旅行を楽しめるだろう。昔公共の宿をつくるときには「身体障害者も健常者と一緒に旅行を楽しむ」などという発想がなかったのだろうが、やっと日本でも「ノーマライゼーション」という言葉が根づきはじめたのかもしれない(?)嬉しいことである。

ここは施設も綺麗だが従業員も素朴で親切だった。料金も比較的安く料理もおいしかった。
妻に1杯だけ分けてもらった清酒千曲錦の冷酒もまた美味しかった。

翌日土曜日も朝から雨、10時に宿を出て石川さゆりのCDを聴きながら帰路についた。「夫婦善哉」のメロディーが温かくお腹の中までしみこんできた。良い旅行だった。

結婚30周年のささやかな記念旅行はこうして終わった。

ホームページに戻る)(旅行記目次に戻る